医療相談室 Q&A集

腰椎椎間板ヘルニア術後痛みがよくならない

-医療相談4-
腰椎椎間板ヘルニアの術後、下肢のしびれは良くなったが、痛みが良くならなかったのはなぜですか?

術後、痛みとしびれの改善に乖離が起こる場合、どう考えるべきか、
なかなか悩ましい問題です。

相談者:37歳女性

術前症状
 急に発現した腰痛と
 右臀部から膝下外側、足首、拇指の痛み、
 右下肢全体のしびれ。
 横になっていると痛みは軽減、座位、
  立位、歩行で増強。
 足の動きに問題はない。

経過
右L4/5の椎間板ヘルニアと診断され、顕微鏡手術を受けた。術後3ヵ月が経過し、下肢のしびれは軽くなったが、右臀部から大腿・下腿の痛みは軽減せず、座位、立位、歩行の困難な状態が続いている。
担当医から、椎間板がつぶれて、腰椎が不安定なための痛みであり、このまま続くなら固定術が必要と説明を受けている。

患者さんから次の質問がありました:

質問1:しびれは良くなったのに、なぜ痛みは良くならなかったのか。
質問2:椎間板がつぶれて、なぜ下肢の痛みが起こるのか。
質問3:固定術が必要と言われているが、他に治療法はないのか。

質問1に対する回答
まず始めに、患者さんの診断について私の考えを説明します。
患者さんの症状は右L5神経根症であり、年齢と症状経過から椎間板ヘルニアが最も疑われます。

L5神経根症をきたす椎間板ヘルニアは、L4/5の後外側型ヘルニア(脊柱管外側部)とL5/S1の外側型ヘルニア(椎間孔内ヘルニア)、そしてL5/S1の超外側型ヘルニア(椎間孔外ヘルニア)です。
このうちのいずれかが原因のはずです。

この患者さんでは、右L4/5の後外側型ヘルニアの術後、下肢のしびれは改善していることから診断自体に誤りはなかったと考えられます。L5/S1の外側型ヘルニアや超外側型ヘルニアは否定的です。それではなぜ下肢の痛みが改善しなかったのか。医師はヘルニアを摘出したと説明していますが、手術に原因があることは明かと思います。ヘルニアが摘出されたぶん神経根の圧迫が緩みしびれは軽減した。しかし、L5神経根の圧迫が完全に除去されていないために根の刺激状態が続き、座位や立位、歩行で痛みが増強する状態が続いたと推測されます。恐らく、ヘルニアに脊柱管狭窄が併存していた可能性が高いと思われますが、ヘルニアの取り残しの可能性も否定できません。

質問2に対する回答
椎間板が潰れ、腰椎が不安定になって、神経根の痛みが起こることは臨床で多く経験されることです。この場合、不安定性の他に脊柱管外側狭窄や椎間孔狭窄を伴っていることが一般的です。不安定性がよほど強くない限り、不安定性のみで根症状が発現することは極めて少ないことです。主治医が腰椎の不安定性が痛みの原因と判断していることはあながち誤りとも言えませんが、先にも説明したように、L4/5に脊柱管狭窄が併存していたことが痛みが軽減せず持続した主因と考えるのが妥当と思います。

質問3に対する回答
 次の治療法は、固定術より選択肢がないかとの質問には、画像所見を検討しないまま無責任なことは言えませんが、私の経験では再除圧術でよくできる可能性があると思います。このような場合でも、私は不安定性が強くない限りMD法による除圧術を優先します。侵襲の大きな固定術ではなく、低侵襲に治すことができるなら患者さんにとってメリットは極めて大きいと思います。

結論
 この患者さんでは、L4/5の脊柱管狭窄症と腰椎不安定症が椎間板ヘルニアに始めから併存していたと推測されます。手術でヘルニアは摘出されたものの、狭窄症によるL5神経根の圧迫が残存してしまったため術後、しびれと痛みの改善に乖離が起こり、座位や立位、歩行障害が持続したのではないでしょうか。これからの対応としては、私であれば固定術ではなく再除圧術をお勧めしたいと思います。

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