医療相談室 Q&A集

-医療相談3-
 腰椎椎間板ヘルニアが「小さいのでたいしたことはない」、「強い痛みになるはずはない」と担当医から言われているが、激痛で辛い状態が続いています。ヘルニアが小さいと激痛はおこらないのでしょうか?

60代、男性

経過:仕事で重量物を持ち上げた時から、腰痛と左臀部から太もも、すねに強い痛みが発現、近くの病院を受診し、MRIで「ヘルニアはごく小さい物なので、たいしたことはない」と診断され、神経ブロックと薬物治療が開始された。ところが痛みは軽くならずに、むしろ悪化したため、他の病院を受診した。しかし、そこでも同様の診断を受けた上に、医師から「こんな小さなヘルニアで激痛になるはずはない」とまで言われたそうです。その後も激痛が続くため途方に暮れているとの相談でした。この患者さんは、排便時など座る姿勢・動作で痛みが増強するため、水分のみの寝たきり状態が2週間も続いているとのことでした。

ヘルニアの大小で痛みの程度が決まるか」について回答します。

患者さんから、この種の質問を医療相談室と外来で時々受けます。医師は患者さんがわかり易いように、ヘルニアの大小で病気としての重症度や痛み・症状の程度を伝えることが多いと思います。しかし、誤解のもとにもなる表現ですので、その使用には十分な注意が必要です。

正解は「ヘルニアの大小で、必ずしも痛みの程度は決まらない」です。

ただし、ヘルニア全体では、そのサイズが大きくなるほど、痛みや神経症状はより強くなる傾向があると知っておいてください。

解説:坐骨神経痛などの神経性疼痛(痛み)は、ヘルニアが脊柱管外側部椎間孔椎間孔外にあると激痛になり易い。それは強い痛みを引き起こす神経根神経節がヘルニアによって直接に圧迫・刺激されるからです。この場合は、ズキズキとうずいたり刺し込んだりの激痛になります。一方、脊柱管中心部では馬尾が圧迫されるために激痛にはなりません。ピリピリ、ビリビリなどの異常感覚になります。

このように圧迫を受ける神経組織が神経根か、神経節か、馬尾かによって痛みの程度・性質が変わります

加えて、椎間孔付近(脊柱管外側部を含む)は、骨の中の神経の通路が狭いため、ヘルニアが小さくても容易に神経根が強く圧迫・刺激されて激痛が起きます。従って、この椎間孔付近に大きなヘルニアが発生したなら、痛みの他、しびれや麻痺などの神経症状も高度になります。

ご相談の患者さんでは、症状からL5神経根の障害が疑われます。L5神経根症であれば、L4/5の脊柱管外側部のヘルニアを先ず疑います。この部位であれば、脊柱管の広い狭いが関係しますが、比較的小さなヘルニアでも激痛が起こり得ます。その他、L5/S1の椎間孔や椎間孔外のヘルニア、すなわち外側型ヘルニアでもL5神経根由来の激痛が起こりますので、これらが見逃されていないか、慎重に検討されるべきです。

繰返しますが、坐骨神経痛を含めてL5神経根領域の激痛の場合には、L4/5の脊柱管外側部とL5/S1の椎間孔・椎間孔外のヘルニアを検討することが不可欠です。ケースによっては、L4/5とL5/S1の両方にヘルニアが存在することがあるので注意が必要です。

  追記:回答はあくまでも腰椎変性疾患を前提にしています。神経性激痛を起こす原因は、他には癌や腫瘍、脊椎炎など色々ありますので、これらを除外した上であることは言うまでもありません。

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