再発腰椎椎間板ヘルニアに固定術は第一選択とすべきでない。

腰椎椎間板ヘルニア再発

1.再発椎間板ヘルニアの頻度

過去107例で再発椎間板ヘルニアにMD法を行いました。全ヘルニア手術の約8%に当たります。この数値は他の医療機関の再発ヘルニアも加えたもので、私が執刀した症例に限ると再発ヘルニア手術は3%弱でした。

2.再発ヘルニアの殆どはMD法で対応

再発ヘルニアに固定術が第一選択であったのはそれほど前のことではありません。しかし近年は、再発ヘルニアにも摘出術が行われるようになってきました。私の107例のシリーズでは、104例(97%)はMD法で対応し、固定術が必要になったのはすべり症を伴った3例(3%)のみでした。すべり症がヘルニア再発の基になっている場合には固定術が必要になります。

3.ヘルニア再発回数

平成22年1月から令和2年3月までの再発56例の再発回数は、1回52例、2回3例、4回1例でした。2回以上の再発は7%と少なく、再発防止の観点から固定術が必要ということにはならないと考えています。

4.ヘルニア摘出から再発までの期間

手術から再発までの期間を23例で検討すると、1カ月以内が1例、1~3カ月が2例、3~6カ月が3例、6~12カ月が5例、12カ月以降が12例でした。約半数は半年以内に再発していることから、術後早期に腰に負担をかける労働や運動は避けた方が良いと考え、患者さんにはそのような指導をしています。

5.MD法について

再発ヘルニアは、図で示すように硬膜や神経根は瘢痕組織に覆われて、強い癒着を示します。この瘢痕組織の扱いを間違えると、硬膜を大きく破損して神経を障害する危険性があります。そのような事態を避けるように再発ヘルニアによる神経根の圧迫を適切に除去しなければなりません。ここに初回手術と異なる、再発ヘルニアの難しさがあります。
手術は、椎弓と瘢痕組織の境界に直径3mmのダイアモンドバー(エアドリル)で溝を掘り、椎間板(緑矢印)に到達してから、尾側で神経根(赤矢印)の正常部分を露出・確認してヘルニアを摘出する(青矢印)のが通常の手順です。

ヘルニア手術のポイントは、ヘルニア摘出に余り固執せず、神経根の適切な除圧を得ることにあります。このことは再発ヘルニアでは特に重要になります。
再発ヘルニアの処理方法を51例で検討したところ、ヘルニアと椎間板の両方の摘出を行っのは39例、ヘルニアのみの摘出は6例、ヘルニアの摘出は行わず、神経根の除圧を行ったのは6例でした。ヘルニア摘出が危険と判断されるケースでは、術中柔軟に方針転換を図ることが極めて重要になります。あくまでもヘルニア摘出にこだわり、神経根を傷害してしまうことが実際に起きているからです。

6.術前後の画像所見

L4/5の再発ヘルニアです。
右側で椎間板レベルから下方に脱出したヘルニアを認めます。ヘルニアに軟化所見が見られることから、吸収される可能性がありましたが、根性痛が強く、足関節の背屈障害が進んできたため手術を行いました。

術後MRI(左端と右端)では、ヘルニアのあった所と椎間板内が白くなっています。これはヘルニアと椎間板を摘出した跡に血液が溜まったためです。真ん中の画像の赤矢印は3mmのダイアモンドバーで掘り下げた椎間板とヘルニアまでの溝を示します。

術前後CTを見ていただくと、赤矢印で示すように骨の削除は僅かであることがわかります。
再発ヘルニアでも、できるだけ骨の削除を少なくして、ヘルニアの摘出と神経根の除圧を適切に行えるのが、私はMD法の優れた点と考えています。

MD法を行う際に注意が必要なことは、瘢痕組織内に埋まる神経根を誤って傷つけないことと不注意に硬膜を破らないことです。
どんな手術にもコツがあり、リスク回避には経験が必要です。MD法も然りであり、特に再発ヘルニアにMD法を行うならMD法の十分な経験を積んでからすべきであることは言うまでもありません。

7.手術成績

MD法の手術成績は、初回手術と比べて遜色なく、92%はExcellent・Good、8%がFairで悪化例はありませんでした。初期の頃は、術中に硬膜の小破損が生じ、髄液が漏れるケースがありましたが、それを防ぐ方法を身につけてからはほとんど経験することはありません。手術による神経根傷害の発生はなく、感染症の合併もありませんでした。

8.結論

再発ヘルニアは、手術経験を充分に積んだなら、MD法で安全に良好な結果を得ることができます。固定術の弊害は少なくないことから、再発ヘルニアの手術に適したMD法が広く普及することを期待しています。

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