札幌美しが丘脳神経外科病院で第一例目の脊椎手術が施行されました。

(続)脊椎外科医の戦場 頚椎椎間板ヘルニアに対する前方固定術

大きな頚椎椎間板ヘルニア(C3/4)に対する前方固定術によって脊髄症状は改善に向かう。

8月から私は札幌美しが丘脳神経外科病院で診療を開始するとともに、脊椎手術へ向けて準備を進めました。そして、9月に開院第一例目となる頚椎椎間板ヘルニアの前方固定術を実施しました。

患者さんは70代男性で、症状は両手の使いにくさとしびれ、不安定歩行(痙性跛行)。支えなしに歩けますが、走ることはできませんでした。頚部痛や上肢、肩甲骨付近の痛みはありませんでした。頚椎MRIでは、驚くほど大きな椎間板ヘルニアをC3/4に認めました。症状の程度からは信じられないほど大きなヘルニアでした。この大きさで、なぜ脊髄症状が軽いのか、改めて身体の不思議に思いを巡らせました。教科書的には、頚椎椎間板ヘルニアはC5/6、C4/5、C6/7など下位頚椎に多いですが、高齢者はC3/4など、より高位に発生する傾向があります。また高齢者では、ヘルニアによる脊髄症状が急速に悪化することがありますので、この患者さんはヘルニアの大きさから見ても手術を急ぐ必要があると判断しました。

患者さんには、手術の目的は「脊髄を障害しているヘルニアを取り除くこと」であり、障害された脊髄を直す手術などはなく、症状の改善は脊髄の自力快復によることを説明しました。つまり、これらが意味することは、手術までに脊髄の障害が高度になってしまうと、術後の改善は不良となり重度の後遺障害を残す危険性が高くなるが、神経障害の程度が軽い段階であれば良好な回復が期待できるということです。このことを患者さんがしっかりと理解して手術を決断してもらうことが必要でした。なぜなら、患者さんに痛みはなく、脊髄症状は比較的軽かったことから、極めて危険な状態にあることを実感することはできなかったからです。

この患者さんのMRIを呈示します。

頚椎椎間板ヘルニア C3/4 術前MRI

手術は、右頚部に横切開、広頚筋に縦切開を加えて頚椎前面にいたり、椎間板ヘルニアの摘出と椎体間固定を行いました。後縦靭帯は大きく裂けており、脱出した椎間板組織は硬膜上に侵入していました。椎体間固定用のケージは、CeSpace XP 16×13.5×5mmを使いました。このケージは椎体との接触面が広いため椎体内に沈み込みしにくいことと、骨癒合が良いことから私は好んで用いています。
手術写真と術後XPを呈示します。
頚椎椎間板ヘルニア C3/4 手術写真
前方固定術 術後XP

術後MRIを呈示します。
頚椎椎間板ヘルニア C3/4 術後MRI
術後翌日から頚部カラーを装着して離床開始。両手のしびれ・使いにくさ、歩きにくさは順調に改善傾向を示しました。箸が使いやすくなった、字が書きやすくなった、歩きやすくなった等々、患者さんは症状の改善を実感していました。手術による創部痛は軽く、大きなヘルニアでしたが神経合併症はまったく見られず、満足してもらえる結果となりました。

この患者さんで不思議に思われた「ヘルニアが大きいにもかかわらず脊髄症状が比較的軽かった」のは次のように考えられました。椎間板組織の変性が強く、椎間板腔内で髄核は柔らかくボロボロと砕ける状態でした。この柔らかく脆い椎間板組織が複数の小さな塊として硬膜外腔に侵入し、脊髄を圧迫していたために腫瘤としての大きさの割に脊髄に対する圧迫影響は軽くすんだのであろうと推測いたしました。術前MRIで硬膜外腔に脱出したヘルニアが桑の実様に見えたのは、そのためと思われます。
こうして札幌美しが丘脳神経外科病院における脊椎手術第一号は良好な結果を得て、幸先の良いスタートになりました。

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