腰椎椎間孔狭窄症に対してMD法により正中内側から椎間孔拡大術を行い、神経根を除圧したケースの紹介。
1.はじめに
椎間孔部とは、椎間孔と椎間孔外の両方を含む領域を指します。また、椎間孔は内側部と外側部に分けますが、狭窄病変は内側部に限局するもの、外側部に限局するもの、さらに椎間孔全体に及ぶ三つのタイプがあります。
今回は、内側部限局の狭窄病変症例について説明します。
2.椎間孔部の解剖と狭窄病変
図1.椎間孔部
椎間孔部(図1)は、椎間孔(赤丸+緑丸)と椎間孔外(桃丸)に二分され、さらに椎間孔は、冒頭で述べたように内側部(赤丸)と外側部(緑丸)に二分されます。
内側部で神経根を障害する病変には、椎間板ヘルニアと腰椎症(変形性腰椎症)があります。椎間板ヘルニアは外側型と呼ばれるものであり、腰椎症では、変性肥大した上関節突起が椎間孔内に侵入することで起こります。
図2.正中アプローチ
3.手術アプローチ
脊柱管と椎間孔へ到達するアプローチには、正中アプロートと後外側アプローチがあります。脊柱管や椎間孔内側部には正中アプローチ、椎間孔外側部と椎間孔外には後外側アプローチを取ります。
正中アプローチは、さらに同側アプローチと対側アプローチがあります(図2)。
病変のある側からのアプローチが基本ですが、病変が両側にまたがるケースや発育性狭窄のため椎弓幅が短く、棘突起と椎間関節との間隔が狭いケースでは、片側病変の場合でも椎間関節を温存するために対側からのアプローチをとることがあります。
4.椎間孔内側部への三つのアプローチ
MD法による椎間孔内側部へのアプローチは、三通りあります:上で説明した同側と対側からの正中アプローチ(図2)、さらに同側の後外側アプローチ(図1の矢印2)。病変レベルと腰椎の形態に基づき、「病変への最短ルート」と「椎間関節の温存」を考慮して適切なアプローチを選択します。アプローチの詳細は別の機会に改めて説明します。
5.症例呈示
患者:70歳女性
腰痛と左臀部から大腿外側後面・下腿外側、足背・足底に痛み・しびれを訴え、左足の背屈力低下を認めた。神経学的には左L5神経根症、画像所見から左L5/S1椎間孔狭窄症と診断した。L4/5の脊柱管には病的といえるほどの狭窄所見は認めなかった。薬物治療の効果なく、1年以上の経過があることから、MD法による手術を行った。手術は、腰部正中に18mmの皮膚切開を加え、MD法による正中同側からのアプローチで、L5/S1の椎間孔内に入り込んだS1上関節突起を削除してL5神経根を除圧した。
上段は術前:左端のMRI矢状断ではS1上関節突起が椎間孔内に入り込んでいる所見を示し、MRI横断像では椎間関節が変形して椎間孔を狭めており、矢印の先にL5神経根を認める。MRI冠状断像では椎弓根直下に上関節突起の先端部がL5神経根に重なるように描出され、右端のCTでは椎間板が外側に膨隆・石灰化した所見を認める。
下段は術後:左から、MRI矢状断像では椎間孔内に入り込んだ上関節突起は削除されており、MRIとCTの横断像では椎間関節の内側部が削除され、椎間孔が拡大されているのがわかる。MRI冠状断像では術野内に小血腫を認めるが、上関節突起は矢状断像が示すように削除されている。
手術所用時間はおよそ1時間で出血量は10ml。患者さんは翌日から歩行開始し、術後2週間までに痛みはほぼ消失し、下肢に軽いしびれはまだ残るものの歩行障害は解消したため、手術結果に満足されての退院となりました。
6.アドバイス:
腰椎症性椎間孔狭窄症で、内側部に限局するケースでは、MD法の正中アプローチによって椎間孔内に入り込んだ上関節突起を削除することによって神経根は除圧され、症状の改善・消失が得られます。私の経験では、術前にすべりを認めなかった椎間孔狭窄症で、MD法による除圧術後にすべり症が発生し、固定術が必要になったケースは数年以上の経過観察でも認めておりません。しかしながら、腰椎の不安定性の強い、特に70歳未満のケースでは固定術を第一選択とするのが妥当と考えます。