ヘルニアのステージを知って治療を受けよう!

腰椎椎間板ヘルニアのステージ分類

この分類は、私が4,000例を超える腰椎手術の経験をもとに、患者さんの症状の経過と神経障害の進み方を整理した独自の臨床分類(私案)です。

1.はじめに

椎間板ヘルニアがなぜ発生するかについては明確な答えはありませんが、先天的要因と後天的要因の両者が関係していると考えられています。先天的要因とは、生まれ持った椎間板の脆弱性であり(ヘルニアは家族性に発生することが少なくない)、後天的要因とは椎間板に機械的ストレスを加える運動や労働などです。また、喫煙は椎間板の変性を促進し、ヘルニアを起こし易くすることが知られています。

     

2.椎間板の変性はいつ頃から始まるか

椎間板ヘルニアが発生する準備段階として、椎間板を構成する髄核と線維輪の退行変性による脆弱化があります。10代の小児でも発症するので、椎間板の老化変性は随分早くから始まっているわけです。この椎間板変性はMRIで検出できます。
図は14歳女児のMRI:L5/S1の椎間板の変性所見(矢印)とヘルニアを認めます。

3.椎間板症と椎間板ヘルニア

椎間板症とは、椎間板はMRI上ヘルニアと呼べる程の膨隆を示さないが腰痛に関係する状態です。一方、椎間版ヘルニアとは、椎間板の膨隆や椎間板内の髄核の脱出によって腰痛や坐骨神経痛、下肢に神経根や馬尾症状が出現する状態をさします。ただし、MRI画像で椎間板ヘルニアを認めても無症状のものがあるので診断には注意が必要ですし、椎間板症と椎間板ヘルニアを明確に区別することが困難なこともあります。椎間板の変性過程として見るなら、椎間板症から椎間板ヘルニアへ段階を踏んで進むと知っておくと良いでしょう。

4.椎間板ヘルニアのステージ分類(私案)

椎間板ヘルニアの大部分は神経根を傷害する神経根型の病型をとります。馬尾神経を障害する馬尾型は少なく、馬尾型は早期手術となることが殆どです。従って、私が提唱するステージ分類は神経根型を対象にしています。

このステージ分類は、MRI画像ではなく、患者さんに現れる症状をもとに作成したものです。
ヘルニアの大きさだけでは症状の重さは決まりません。
そこで私は、神経がどの程度障害されているかを基準に5段階に分類しました。
現在どの段階にあるのかを知ることで、治療の時期や治療法を考える参考になります。

注意していただきたいことは、すべてのヘルニアがこのステージを踏んで進行・悪化するわけではないことです。例えば、ステージ1に止まり、治癒する軽症のヘルニアもあります。またステージII~IVで始まるヘルニア、止まるヘルニアもあります。このステージ分類が意図するのは、ヘルニアが神経根に与える影響・程度を分析することで「神経根障害の程度」を推測し、「手術時期の判断」に役立てることです。圧迫による神経根障害は、通常、痛み・しびれで始まり、次に感覚障害、その次に筋力低下による運動障害、そして最終的には後遺症として残存する感覚障害・運動障害へと順序を踏みます。私のステージ分類は、このような圧迫性神経根障害の病態と私の経験に基づいて作成したものです。
私は、ヘルニアの後遺症である神経障害性疼痛やしびれ、運動麻痺を後に残さない治療について長く検討してきました。脊椎外科医が患者さんのためにできることは、神経根を圧迫するヘルニアを除去するのみであり、神経根の障害を直接直すことはできません。あとは神経根の回復力に頼るしかないのです。それならば、神経根の障害が回復し得る段階で手術を行うなら、患者さんに辛い後遺症を残さずに済むと考えたわけです。専門的には、圧迫による神経障害には、可逆期と非可逆期があり、可逆期に圧迫を除去するなら障害は残らず、非可逆期なら障害が残るという確立された治療論があります。この考えに基づいたステージ分類であることをご理解いただいた上で、ご利用いただければと思います。

ステージI局所炎症期
 腰痛のみで、坐骨神経痛(臀部付近の痛み)や大腿神経痛(鼠径部付近の痛み)、下肢の痛み・しびれのないステージ。
痛みは、急性痛の形を取り、前傾姿勢や坐位で増強し、立位で軽減する特徴があります。
      

ステージII神経根圧迫期
腰痛に加えて、新に坐骨神経痛あるいは大腿神経痛が起こるステージ。
ヘルニアが脊柱管や椎間孔を通る神経根を圧迫・刺激することによって強い神経性疼痛となります。
頻度的には、坐骨神経痛の形を取ることが大腿神経痛よりも圧倒的に多いのは、ヘルニアが坐骨神経痛と関係する腰椎4番と5番の椎間板(L4/5)と腰椎5番と仙椎1番の椎間板(L5/S1)に好発するからです。

ステージIII神経根障害前期
下肢の感覚障害が出現・進行するステージ。
神経根が支配する皮膚領域(デルマトーム)に痛みやしびれ、冷感(触ると冷たくないが異常に冷たく感じ、温めても温かくならないのが特徴)が出現します。
このステージでは、新に下肢の感覚障害が出現・進行しますが、筋力低下はまだ認めないのが特徴です。
     

ステージIV: 神経根障害後期
あらたに下肢の筋力低下による運動機能障害が出現・進行するステージです。
このステージでは、痛みの他、下肢のしびれ・感覚障害とともに、筋力低下が進行するため、患者さんの生活への影響が大きくなります。

ステージV: 神経根障害永続期
このステージでは、それまでに進んできた下肢の感覚障害や麻痺筋の萎縮による運動機能障害が後遺症として残る可能性が高くなり、薬物治療の効果も低下します。家庭生活や社会生活への影響がより大きくなります。

 

繰り返しますが、実際のケースでは最初からステージIIへ進むもの、さらにステージIIIまで一気飛びするものがあります。また、症状の改善が起こり、ステージIIIからIIへ逆行するものもあります。

以上、椎間板ヘルニアの臨床ステージを症状中心に分類しましたが、MRI所見をこの分類に組み込むことは困難です。なぜなら椎間板ヘルニアの大小や局在と症状程度とは必ずしも一致しないからです。つまり大きなヘルニアでも症状が軽いことや、一方小さなヘルニアでも症状が重いことがあります。さらにヘルニアの部位と症状程度が強く相関するわけでもありません。

5.痛みの進み方

基本的に痛みは図の順序で広がります。ただし、第2段階では坐骨神経痛のみの場合や、第3段階では坐骨神経痛と神経根障害領域の痛みのみの場合があります。これはヘルニア周囲の刺激状態、つまり炎症程度によって変わります。

腰椎椎間板ヘルニアの患者さんは、ご自身のヘルニアがどの段階に該当するか検討してみてください。

6.あなたはどの段階でしょうか

症状だけでは病気の正確な診断はできませんが、

症状から、ご自身がどの段階に近いかを知ることは、

受診や治療を考える上で役立ちます。

症状が急速に悪化している場合や、筋力低下、排尿・排便障害がある場合には、早めに脊椎専門医を受診してください。

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