腰椎椎間板ヘルニアの臨床ステージ(私案)を理解して治療に望むことが重要!
1.はじめに
椎間板ヘルニアがなぜ発生するかについては明確な答えはありませんが、先天的要因と後天的要因の両者が関係していると考えられています。先天的要因とは、生まれ持った椎間板の脆弱性であり(ヘルニアは家族性に発生することが少なくない)、後天的要因とは椎間板に機械的ストレスを与える運動や労働などです。また、喫煙は椎間板の変性を促進し、ヘルニアを起こし易くすることが知られています。
図)14歳女児のMRI
2.椎間板の変性はいつ頃から始まるか
椎間板ヘルニアが発生する準備段階として、椎間板を構成する髄核と線維輪の退行変性による脆弱化があります。10代の小児でも発症するので、椎間板の老化変性は随分早くから始まっているわけです。この椎間板変性はMRIで検出できます。
図は14歳女児のMRI:L5/S1の椎間板の変性所見(矢印)とヘルニアを認めます。
3.椎間板症と椎間板ヘルニア
椎間板が痛みの原因であるが、MRIではヘルニアと呼べる程の椎間板の膨隆を認めないものが椎間板症(椎間板変性症)であり、腰痛の原因になります。一方、髄核の膨隆や脱出によって腰痛や神経根・馬尾症状を呈したものが椎間板ヘルニアです。ただし、MRI画像では椎間板ヘルニアを認めても無症状のものがあるので診断には注意が必要です。椎間板症と椎間板ヘルニアを明確に区別することは、臨床的に困難な場合が少なくありません。一般的に椎間板ヘルニアは椎間板症を母地にして発生すると理解しておくと良いと思います。
4.椎間板ヘルニアのステージ分類
椎間板ヘルニアの臨床ステージは次の三段階に分けられます。
ステージI:腰痛が中心で、下肢に症状はない。前傾姿勢や長く座っていると腰痛が発生、
あるいは増強する。急性痛や慢性痛の形を取る。
ステージII:腰痛に加えて、臀部や大腿に痛みが起こる。ヘルニアは脊柱管内や椎間孔内を
走行する神経根を圧迫・刺激して臀部や大腿に激痛が起こる。
多くは坐骨神経痛と呼ばれる痛みになるが、 ヘルニアの発生部位によっては大腿神経痛となる。
ステージIII:障害を受けた神経根が支配する下肢の皮膚領域(デルマトーム)に痛みやしびれ、
冷感、さらに筋力低下などが起こる。
椎間板ヘルニアが神経根を圧迫し、その程度が増強するにつれて、痛みなどの症状は腰部(ステージI)から腰部と臀部・大腿(ステージII)、さらに腰部と神経根支配領域(ステージIII)の順に進行します。実際のケースでは、最初からステージIIへ進むもの、さらにステージIIIまで一気飛びするものあります。また、経過中これらの段階を逆戻りするケースもあります。すなわちヘルニアによる神経根の影響が軽減して、IIからI、IIIからIIへ逆戻りして症状が改善・消失していきます。
以上、椎間板ヘルニアの臨床ステージを症状中心に分類しましたが、MRI所見をこの分類に組み込むことは困難です。なぜなら椎間板ヘルニアの大小や局在と症状程度とは必ずしも一致しないからです。つまり大きなヘルニアでも症状が軽いことや、一方小さなヘルニアでも症状が重いことが少なくありません。さらにヘルニアの部位と症状程度が強く相関するというわけでもありません。
5.痛みの進み方
基本的に痛みは図の順序で広がります。ただし、第2段階では坐骨神経痛のみの場合や、第3段階では坐骨神経痛と神経根障害領域の痛みの場合と神経根障害領域の痛みのみの場合があります。これはヘルニア周囲の刺激状態、つまり炎症程度によって変わります。
腰椎椎間板ヘルニアの患者さんは、自身のヘルニアがどの段階に該当するかを検討してみてください。
次回は、各段階に応じた治療法について説明します。