臨床ステージによる腰椎椎間板ヘルニアの治療

1.はじめに

腰椎椎間板ヘルニアの治療は、大きく保存治療手術治療に分かれます。それぞれに多くの治療法があり、それらの治療効果を単純に比較することはできません。治療は理論と経験による裏付けが必要ですが、これらが両立する治療法は限られているのではないかと思います。私は、患者さんのヘルニアによる「痛みと生活の問題」がどのような状態にあるかを重視して治療方針を決めています。判断の基準になるのが、先の記事で紹介しました「腰椎椎間板ヘルニアの臨床ステージ」(https://www.spine-drshujisato.com/2020/05/10/clinical-stage/)です。私はこの基準をもとに治療方針を決めるようにしています。これからステージIからステージIIIまで、順に説明していきます。

2.ステージIの治療法

ステージI:ぎっくり腰など腰痛の強い時期は安静がまず第一に必要です。
痛みには非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)、アセトアミノフェンなどを使います。
痛みの部位に湿布を貼るのは痛みを軽くする効果があります。
この急性腰痛の時期は、損傷した靱帯周辺の炎症が痛みの原因になっているので
治療は安静と消炎鎮痛を目的とした薬物治療が中心になります。

次にあげる生活上の注意は非常に大事です。
注意I:(1)長く座ることは腰痛を強くするので避ける。(2)寝ている時の姿勢は痛みに楽な姿勢を保つ(例:通常、横になりエビのように身体を丸めた姿勢が良い)。(3)痛みが軽いからと動き回ると炎症が再燃し痛みがぶり返えす。(4)この時期にやってはいけないこと:(a)ウオーキングやストレッチなどの運動、(b)風呂などで温めること、(c)アルコール類の飲用、
(d)腰椎牽引、(e)整体など腰への手荒な治療
注意2:消炎鎮痛剤を服用しながら仕事や運動をやったのでは、鎮痛効果は減弱ないし無効になります。よく薬が効かない、飲んでも無駄という言葉を耳にしますが、多くは安静が保てないためです。

アドバイス:この炎症期の痛みは通常、1~2週間で消失していくので焦らずに待つことが必要です。とは言っても、実際には安静を保つことのできない事情を持ったヒトが多いと思いますので、上記したことを念頭に置いて、痛みを悪化させないよう自己管理することが重要です。この段階の椎間板ヘルニアによる腰痛は、時期が来れば必ず治ると信じて、辛い時期を乗り越えることです。ヒトの痛みは他人は勿論のこと、家族でも理解しにくいものです。そのために腰痛など痛みに悩むヒトは孤独感に襲われ、さらに、元の生活にもどることのできないことからの焦燥感も加わって、心身が病んでいきます。辛い痛みに対する周囲の温かい理解こそが一番の薬ではないかと思います。      
       

3.ステージIIの治療法

ステージII:坐骨神経痛(または大腿神経痛)を伴う段階の治療は、基本的にステージIと同じ保存治療が中心です。ただし臀部や大腿部の痛みは激痛になることが多く、身の置き場のない痛みで行動制限が強くなることがしばしば起こります。この段階の薬物治療は、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)とアセトアミノフェンの他、抗炎症作用の強いステロイド剤の注射や神経根ブロックなどが行われます。近年、神経障害性疼痛にプレガバリン(リリカ)やミロガバリン(タリージェ)がよく使われますが、急性炎症期の激痛に対する効果はいまいちの印象です。さらにオピオイド(非麻薬系)系のトラマドール(トラマール)やトラマールとアセトアミノフェンの合剤のトラムセットもよく用いられています。痛みの程度に応じて、作用機序の違う薬を組み合わせて使うことが薬物治療の一般的な考え方ですが、薬物には、それぞれに副作用がありますし、高齢者や糖尿病患者では、腎機能低下の問題もありますので、痛いから薬を増やす、強くするということは避けなければなりません。

アドバイス:痛みにどの薬が良いか、よく患者さんに質問されます。当然ですが、痛みに効果があり、副作用のない薬を選択するが正解です。しかし、痛みのコントロールは、単に薬の選択で済むほど単純な問題ではありません。前述したように、炎症の強い時期には安静が必要ですが、家事や仕事でなかなか安静を保てないというヒトが多いのが実情です。痛みが軽くなると動き、家事や仕事をしてしまう。そうすると強い痛みがぶり返す。痛みが強くなるとまた動けなくなる。動かないでいると痛みが軽減してくる。実際の生活では、痛みが軽くなったり強くなったりの繰り返しが起こります。薬だけに期待するのは禁物です。薬が効いてくれる身体の状態に保つことが患者さんのやるべきことなのです。
特に注意して欲しいのは、薬が効かないと医師に訴え続け、鎮痛剤が増え続けることです。その結果、薬の副作用にも悩むことが起こりますので、薬に依存し過ぎ、頼り過ぎは危険なのです。

4.ステージIIIの治療法 

ステージIII:坐骨神経痛(または大腿神経痛)の他、障害神経根が支配する皮膚領域に痛みやしびれ、冷感などが発現した段階では、痛みと併せて下肢の知覚や運動機能の障害が問題になります。この段階では、それまでの保存治療の見直しが必要になります。すなわち、保存治療が限界に達したと認識することが重要です。慢性的に続く腰痛や臀部・大腿部の痛み、神経障害領域に続く痛み・しびれ・冷感などの知覚障害、さらに筋力低下などに対してはヘルニアを根本的に治すための手術治療が必要になります。

アドバイス:ステージIIでも「治療にもかかわらず持続する強い痛み」と「ステージIIIの痛みの慢性化と神経障害の持続・悪化」を示す患者さんで、とりわけ発症後3ヵ月を過ぎている場合には手術治療を検討すべきです。
その理由:椎間板ヘルニアの約8割は発症後3ヵ月までに自然治癒することがわかっています。自然治癒するなら、発症後3ヵ月までには改善の兆候が見られるということです。それを過ぎても治らない残り2割の患者では、ヘルニアは消失せず、神経根を圧迫し続けています。3ヵ月以上も症状が続くことを慢性化といい、自然治癒の可能性は当然のこと低くなり、神経障害が進む危険性が高くなるので手術治療が必要というわけです。手術治療の最終決定は、症状程度、生活の障害程度、身体条件などを慎重に考慮して行わなければなりません。

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