腰椎椎間板ヘルニア手術を失敗させる原因は?

患者さんから、
「手術を受ければ必ず良くなりますか?」
という質問をよく受けます。
残念ながら、手術後も十分な改善が得られないことがあります。
しかし、その原因は必ずしも「手術が失敗した」からではありません。
多くは、
- 診断
- 神経の状態
- 手術方法
- 執刀医の経験
などが関係しています。
ここでは、その代表的な三つの原因について解説します。
まず始めに、手術失敗とは、「患者さんの術前の神経根圧迫・刺激症状が術後も十分に改善しない状態」と定義します。ヘルニアによる神経根症状は、「神経根圧迫・刺激」と「神経根障害」からなります。
「神経根圧迫・刺激」とは、「術後に立位や歩行、体位変換時に術前同様に腰や臀部、大腿の痛みが増強する状態」を指し、これがあると手術失敗が疑われます。ただし、術後一週間は手術による炎症期であり、一時的に痛みが増強することがあるので判断にご注意ください。
「神経根障害」とは、「術前からヘルニアによって障害された神経根による下肢のしびれや筋力低下などが続く状態」であり、これは手術失敗には該当しないことを予めお断りしておきます。
1.症状の原因であるヘルニアの診断が困難な場合
原因は、次の二つがあります。
(a)MRI画像で複数のヘルニアが見つかる場合:どれが症状の原因であるかの診断が難しくなります。症状と関係のないヘルニアを摘出しても当然のことながら患者さんの症状は改善せず、手術は失敗となります。
(b)画像診断が困難なヘルニアがあります:そのヘルニアが起こる部位として、脊柱管内、椎間孔内、椎間孔外があります。一般的に脊柱管内のヘルニアはMRIによる診断は容易です。一方、椎間孔内や椎間孔外のヘルニアは見落とされ易いので注意が必要です。椎間孔内ヘルニアは外側型ヘルニア、椎間孔外ヘルニアは超(又は最)外側型ヘルニアに分類されます。これらのヘルニアは、MRIで異常がない、原因不明とされることが多く認められます。脊椎外科専門医でさえ見落とすことや 確信をもって診断できないことがあるので注意が必要です。
2.診断が正しく、ヘルニアが摘出されても神経除圧が不十分の場合
手術の目的はヘルニア摘出にあると考えられがちですが、重要なことは圧迫されている神経根が適切に除圧されたか否かにあります。神経根除圧が不完全になるのは、ヘルニアの摘出自体が不十分な場合や、ヘルニアに脊柱管や椎間孔狭窄を合併するため、ヘルニア摘出のみで神経根除圧が得られない場合があります。ヘルニア摘出操作が神経根を傷害するリスクが高い場合には、神経根周囲の骨を削って神経根を除圧する方法が有効です。このようにヘルニア摘出に固執しない、神経根を安全に除圧する方針が合併症を減らすことにつながります。
3.執刀医の未熟さと経験不足、熟練した執刀医の油断
執刀医の経験が浅いと、診断と技術の未熟さから手術の失敗が起こることは容易に想像できるでしょう。一方、熟練した執刀医であっても慣れや慢心から油断すると思わぬ失敗を招くことがあります。このように執刀医の経験・技術や心構えも手術の成否と深く関わります。
患者さんへのメッセージ
椎間板ヘルニア手術成功の鍵は、これはすべての手術において言えることですが、
医師の診断力、技術力、判断力、そして油断を戒めるプロ意識にあります。
これらを兼ね備えた脊椎外科医であれば、適切な診断と治療によって、多くの患者さんで良好な結果が期待できます
しかし、医師に100%任せっきりで手術を受けることには慎重でなければなりません。
手術の結果をすべて身に受けるのは患者さん自身だからです。
そのために私からアドバイスがあります。
執刀医から納得できる説明を十分に受けること、
納得いかない場合には他の専門医の意見を求めるセカンドオピニオン制度を利用することです。
腰椎手術を受けるとは、その後の生活のあり様を決定づける大きな人生の節目になる可能性を念頭におき、
決して安易に判断・同意することは謹んで欲しいと思います。
私は50年以上にわたり多くの患者さんを診療してきましたが、手術の成否は手術室に入る前の準備段階からすでに始まっていると心して手術治療に臨んでください。
最後にこの記事と関係するブログ内の記事を参考として紹介します。
診断と治療の困難な外側型と超外側型のヘルニアに関しては参考記事1、2を
患者さん自身のヘルニアのステージとそれに基づく治療方針や手術時期の決定に関する記事は3、5を
手術タイミングの取り方に関することは記事4を参考にしてください。
参考記事
参考記事1:超外側部型の腰椎椎間板が見落とされていた40代の男性
参考記事2:外側型腰椎椎間板ヘルニアの頻度は少ない(約8%)とされてきたが、診断が困難なことが原因。私のシリーズでは22%と決して少なくない。
参考記事3:腰椎椎間板ヘルニアの臨床ステージ(私案)
参考記事4:手術結果を左右する”手術のタイミング”
参考記事5:臨床ステージによる腰椎椎間板ヘルニアの治療

