診断が難しい腰椎椎間孔部狭窄症―見逃されやすい病変から学ぶ教訓―

T2-椎間孔狭窄症

腰から足へ走る痛みが続くのに「MRIでは異常ありません」と言われた経験はありませんか。
その原因が腰椎椎間孔狭窄症であることがあります。

1.はじめに

  腰椎椎間孔部とは、椎間孔内と椎間孔外を含む総称です。腰椎変性疾患ではこの部位に狭窄症と椎間板ヘルニアがありますが、詳しくは次をご参照ください→https://www.spine-drshujisato.com/2020/06/04/lumbar-foraminal-extraforminal-leisonss/)。この部位の診断は困難であるために適切な治療につながりにくいことや、誤診につながり他の無関係な部位で手術が行われるfailed back surgery(失敗した腰椎手術)の原因になることがあります。このように椎間孔部狭窄病変は、今日でも腰椎変性疾患の治療を難しくして、患者さんを医療難民化する原因になっています。

今回ご紹介する患者さんは、診断がつかないまま長い間、坐骨神経痛と歩行障害に苦しまれ、生活・仕事に支障がでていました。この患者さんの診断のポイントを解説いたします。

2.症状・経過

患者さんは50代の男性。職業は輸送業。若い頃から腰痛もちでした。2025年1月、急に腰痛と左下肢の坐骨神経痛、左下腿後外側部の痛みとしびれが出現し、歩行困難になりました。痛みの特徴は、立位と歩行で増強し、前傾姿勢と座位で軽減、右側を下に膝を曲げて横になると楽になるというものでした。某脊椎外科を受診し、MRIなどの検査を受けたが診断がつがず、薬物治療は無効でした。私の外来を受診するまでに脊椎外科を3カ所受診しましたが、原因は明らかになりませんでした。

3.診断課程

私が患者さんを診察したのは、発症後既に半年が過ぎていました。

筋力低下は、左L5神経根が支配する前脛骨筋(足関節を背屈する筋肉)と長母趾伸筋(足の親指を背屈する筋肉)に認め、触覚・痛覚低下の感覚障害は、左下腿外側部から足背にかけてのL5神経根の支配域に認めました。Straight leg raising test(SLRT:仰臥位で下肢を真っ直ぐ伸ばしたまま足を上げていき、腰臀部や大腿後部に痛みが誘発されるかを見るテスト、ラセーグ テストと臨床的意義は同じです)は、左側は30度で陽性でした。

 MRIとCT検査では、腰椎の脊柱管内に椎間板ヘルニアや狭窄などの病的所見を認めないが、左側のL5/S1の椎間孔内から椎間孔外にかけての椎間孔部は、神経根の骨性通路が先天的に狭いタイプで、そこに超外側型(最外側型とも呼ぶ)椎間板ヘルニアが発生し、左L5神経根・節を強く圧迫していました。

 以上の所見から、
症状と神経機能障害と一致する障害神経根は左L5 神経根、
原因部位は左L5/S1の椎間孔内から外にかけて、すなわち椎間孔部、
原因病変は超外側部型椎間板ヘルニア、であることが判明。

確定診断は、左L5/S1の椎間孔内・外狭窄症と超外側部型ヘルニアの合併による左L5神経根症と決定しました。

4.治療方針

半年の経過で、
L5神経根障害による症状が悪化し、
薬物治療の効果なく、
仕事や生活の支障が大きくなっていることなどから、
手術適応と判断しました。
手術は、低侵襲医手術であるチュブラーレトラクターと手術顕微鏡を用いるMD法で(詳細は次を参照→https://www.spine-drshujisato.com/2020/08/10/lumbar-disc-hernia-md-method/ )、
2cmの皮膚切開で先天的な骨の狭窄部を広げ、超外側型ヘルニアを摘出し、
L5神経根・節の圧迫を取り除きました。
手術所見は診断の正しさを裏付けるものでした。

5.術後経過

 術後、腰痛と坐骨神経痛は速やかに消失していき、筋力も回復して歩行障害は解消しました。しかし、感覚障害が長期化していたことから、下肢のしびれはの範囲は足レベルまで縮小しましたが、術後1年経過した後でも残存しています。手術治療がもっと早くに行われていれば、しびれも消失して患者さんに不快な後遺症を残さなかったと悔やまれます。

6.この症例から学ぶ4つのポイント

この症例から学ぶ4つのポイント

① 通常のMRIだけでは椎間孔病変は見逃されることがある

② 神経学的診察は画像以上に重要である

③ L5神経根症では椎間孔狭窄を常に念頭に置く

④ 「異常なし」と言われても症状が続く患者さんには再評価が必要である

これら4項目を踏まえた診断を行うなら、診断の困難な腰椎椎間孔部病変でも正しい診断に至ることができると、私は考えます。

患者さんと医療者へのメッセージ

 患者さんは、立位保持・歩行で悪化し、座位や横になることなどで軽減する腰や下肢の痛み・しびれの原因は、「治すことのできる腰椎変性疾患」である可能性が高いことを知って、決して諦めないで欲しい。

医療従事者には、症状の特徴、神経学的評価、画像所見を軸として正確な診断を心がけ、たとえMRI所見で責任病変が捉えられなくても、症状と神経所見を重視した診断を諦めずに、患者さんとしっかり向き合ってください。

参考記事

○椎間孔部病変の解剖・疾患・手術の関連記事は次をご参照ください。

参考記事1:腰椎椎間孔内外狭窄症は加齢と共に増える腰椎変性疾患です。その特徴とMD法による神経根除圧術について解説しました。

参考記事2:腰椎椎間孔内外狭窄症は加齢と共に増える腰椎変性疾患です。その特徴とMD法による神経根除圧術について解説しました。

参考記事3:椎間孔病変をいかに適切に扱えるかは、腰椎変性疾患を扱う脊椎外科医の重要条件。「椎間孔部病変を制する者は腰椎変性疾患を制する」といって過言でない。

○腰椎椎間孔部狭窄症の誤診例、failed back surgery例の関連記事は次をご参照ください。

参考記事4:側彎症と脊柱管狭窄症の2度の手術がfailed backに終わった腰椎椎間孔狭窄症患者

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