
私が脊椎外科医として経験を重ねる中で、次第に増えていった患者さんたちがいる。
高齢者である。
七十歳代。
八十歳代。
時には九十歳代の患者さんもいた。
その多くは長年にわたり腰椎変性疾患に苦しんでいた。
歩くことが困難になり、
外出する機会を失い、
趣味を失い、
社会とのつながりを失い、
生きる意欲さえ失いかけていた。
そのような患者さんたちが異口同音に家族・周囲からかけられた言葉がある。
「もう歳だから仕方がないですね」
「この歳で手術なんて無理でしょう」
「無理せず、痛みとつきあうことですよ」
「痛みがあっても歩けるうちは大丈夫ですよ」
「歩けなくなったら車椅子がありますよ」
私はこれらの言葉を聞くたびに考えた。
本当にそうなのだろうか。
年齢だけを理由に諦めなければならないのだろうか。
もちろん高齢者医療は容易ではない。
若い人と同じようにはいかないことが多い。
体力も違う。
合併症もある。
骨粗鬆症を抱えていることも少なくない。
そのため端から手術治療は敬遠される。触らぬ神に祟りなしの扱いになりやすい。
しかし私の経験では、高齢であることと治療の可能性は必ずしも一致しない。
しかし、多くの場合、高齢者は「手術リスクが高い患者」と見なされる。
そのため、手術を前提とした診療の対象から外されやすい。なぜなら骨粗鬆症やすべ
り症、側湾症、脊柱管や椎間孔の狭窄症など多病変を多椎間に合併する高度の脊椎症
患者であるからです。
しかし私は、その前提そのものに疑問を抱くようになった。
そして何より、まだ改善の可能性を残しながらも、諦めるしかなかった患者さんがいた。
私はそのような患者さんたちから新たな課題を与えられた。
どうすれば高齢者にも正確な診断と安全な手術ができるのか。
どうすれば身体への負担を減らす手術ができるのか
どうすれば再び歩ける人生を取り戻していただけるのか。
その答えを探し続ける中で、私は低侵襲手術の重要性に気づいていった。
小切開で筋肉をできるだけ傷つけない。
骨の削りを最小にして、手術で骨を弱めない。
術中、輸血や補液の負担を少なくするため出血を少なくする。
術後の痛みを少なくし、強い鎮痛剤を不要にする。
それは単なる手術技術の工夫ではなかった。
高齢者に新たな可能性を開くための挑戦であった。
そして私は、多くの患者さんの姿から学んだ。
長い間、参加を遠慮していた人が仲間と旅行を楽しむ姿。
家事や庭仕事に勤しむ姿。
孫と手をつないで歩く姿。
一人で買い物に行けるようになったと喜ぶ姿。
その姿を見るたびに私は思った。
人は年齢によって希望を失うのではない。
希望を失った時に老いるのである。
だから私は患者さんに伝えたい。
歳だからといって諦めないでほしい。
歩けなくなったからといって人生を閉ざさないでほしい。
もちろん医学には限界がある。
すべての患者さんを救えるわけではない。
しかし可能性が残されているにもかかわらず、自ら未来を閉ざしてしまうことだけは避けてほしい。
私がブログを書き続けてきた理由もそこにある。
紹介してきた多くの症例は成功談ではない。
「諦めてはいけない」というメッセージなのである。
そしてその言葉は、私が患者さんに教えるための言葉ではない。
高齢になっても懸命に生きようとする患者さんたちが、私に教えてくれた言葉なのである。


