北斗七星を見上げて

終章:未来の患者さんへ ーどうかあきらめないで欲しいー

私は七十七歳になった今も診療を続け、手術室に立っている。

振り返れば、長い道のりであった。

脳神経外科医として歩み始め、

五十代になって脊椎外科の世界へ足を踏み入れた。

その道は決して平坦ではなかった。

診断に苦しんだこと、
思うような結果が得られず悩んだこともあった。

自らの力不足を痛感したことも少なくなかった。

しかし、そのたびに私を鼓舞して前へ進ませてくれたのは患者さんであった。

患者さんは私に課題を与えてくれた。

患者さんは私に学ぶ機会を与えてくれた。

患者さんは私に諦めないことを教えてくれた。

そして患者さんは、脊椎外科医として本当に守るべきものは何かを教えてくれた。

私は脊椎を診てきた。

しかし本当に向き合うべきは患者さんの人生であることを知った。

痛みに苦しむ人生。

孤独と闘う人生。

希望を失いかけた人生。

そして再び歩き出そうとする人生であった。

私はその姿から多くを学んだ。

だから私は今も患者さんを見捨てることができない。

それは義務感ではない。

使命感という言葉だけでも足りない。

私をここまで育ててくれた患者さんへの感謝であり、約束だからである。

私はこれまで多くの患者さんと共に歩いてきた。

そして、これからも歩き続けたいと思う。

歩ける限り。

学べる限り。

患者さんの力になれる限り。

未来には、私が見ることのできない時代が訪れる。

医療は進歩するだろう。

診断技術も手術技術も大きく変わるだろう。

しかし、どれほど時代が変わっても変わってはならないものがある。

それは患者さんを一人の人間として見ることである。

患者さんの人生に寄り添うことである。

そして患者さんを見捨てないことである。

私の歩みを導いてくれたものがある。

それは患者さんとの出会いの中で灯された
七つの星である。

患者の訴えを信じること。

病変の先にある人生を見ること。

理解されない苦しみに寄り添うこと。

高齢だからと諦めないこと。

痛みを取るための手術で新たな痛みを作らな
 いこと。

患者を医療難民にしないこと。

患者の人生に伴走すること。

私はこの北斗七星を見上げながら歩いてきた。

そして今も、その星は私の進むべき方向を照らしている。

もしこの文章を読んだ誰かが、この北斗七星を道しるべとして歩んでくれるなら、これほど嬉しいことはない。

だから私は今も、未来の一点から目を逸らせないのである。

私は脊椎外科医として多くの手術患者さんと出会ってきた。

その数は五千人を超える。

しかし私の記憶に残っているのは、手術件数ではない。

苦悩する患者さんの顔であり、人生である。

私は患者さんを治療してきたつもりであった。

しかし振り返れば、患者さんこそが私を育ててくれた。

診断に迷った時もあった。

結果に悩んだ時もあった。

自らの未熟さを痛感した時もあった。

そのたびに患者さんは私に新たな課題を与え、学ぶ機会を与えてくれた。

私が今日まで歩んでこられたのは、患者さんたちのおかげである。

だから私は、この文章を感謝の気持ちを込めて書いた。

患者さんは私にとって単に治療の対象ではなかった。

共に病と闘う仲間であった。

私にとって患者さんは同じ「脊椎外科の戦場」に立つ戦友であった。

痛みという見えない敵と闘いながら、

希望を失わず、

懸命に生きようとする数知れない姿を私は見てきた。

その姿が私を支え、私の士気を高め、

私を成長させ、

私を脊椎外科医として育ててくれた。

本書に書かれていることは、私一人の力で得たものではない。

すべて患者さんとの出会いの中から生まれたものである。

私はそのことをこれからも決して忘れない。

患者さんに教えられた北斗七星を見失わない限り、

私はこれからも歩き続けたいと思う。

最後に。

私を信頼し、自らの身体を託してくださったすべての患者さんに、

心から感謝申し上げたい。

ありがとうございました。

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