患者さんの人生に伴走する

― 次の世代への道しるべ ―
私は五千例を超える脊椎手術を経験してきた。
その中で多くの患者さんと出会い、多くのことを学ばせていただいた。
私が身につけた診断技術も、手術技術も、患者さんとの出会いの中から生まれたものである。
しかし今、振り返って思うことがある。
私が本当に伝え残したいものは、手術手技ではない。
診断法でもない。
脊椎外科医としての考え方である。
脊椎外科医は病変だけを見てはならない。
MRI画像だけを見てはならない。
その画像の向こうで苦しんでいる患者さんを見なければならない。
患者さんが失ったものは何か。
何を取り戻したいと願っているのか。
その人の人生に何が起きているのか。
そこに目を向けなければならない。
私は高齢者医療を通して、一つのことを学んだ。
年齢は可能性を決めるものではない。
人は希望を失った時に老いるのである。
だから高齢だからという理由だけで、患者さんの未来を閉ざしてはならない。
また私は低侵襲手術を追求する中で学んだ。
低侵襲とは小さな傷を競うことではない。
患者さんの苦痛を減らし、人生を守るための考え方である。
そこに患者利益という原点を忘れてはならない。
さらに私が強く伝えたいことがある。
それは患者さんを医療難民にしてはならないということである。
腰椎変性疾患は加齢とともに進行し、多くは生涯にわたり患者さんが向き合わなければならない病気である。
再発もある。
再手術もある。
新たな病変も生じる。
だから脊椎外科医は、一度手術をして終わりではなく、患者さんの人生に伴走する存在であるべきだ。
私は患者さんを治療してきたつもりであった。
しかし振り返れば、患者さんこそが私を医師として育ててくれた。
患者さんは私に課題を与え、そして私の治療がどうであったか、次にどうすべきかを教えてくれる師であった。
だから私は今も学び続けている。
もし私が次の世代へ一つだけ言葉を残すことが許されるなら、こう伝えたい。
患者さんを見捨てないでほしい。
病変を見る前に人を見てほしい。
そして、患者さんの人生に最後まで伴走する覚悟を持ってほしい。
それが私の願いであり、脊椎外科医として歩み続けてきた理由なのである。


