痛みが導いた脊椎外科医の道― 痛みは、「身体に優しい手術」とは何かを私に問い続けた ―

脊椎外科医の重要な仕事の一つは、患者さんの痛みを取り除くことである。
腰椎変性疾患による痛みは時に激烈であり、その苦しみは患者さんの生活そのものを破綻させる。
だからこそ私たちは手術を行う。
神経の圧迫を取り除き、再び歩ける人生を取り戻していただくためである。
しかし私は脊椎外科医として経験を重ねる中で、一つの疑問を持つようになった。
痛みを取り除くための手術が、患者さんに新たな痛みを与えてよいのだろうか。
もちろん手術には侵襲が伴う。
皮膚を切開し、
筋肉を展開し、
骨を削る。
それは避けることのできない現実である。
しかし患者さんは、すでに十分すぎるほど苦しんでいる。
長い痛みの日々を耐え、
不安を抱えながら、
最後の希望として手術を選択する。
その患者さんに対して、術後に強い痛みを与えたり、手術そのものが新たな苦痛となったりすることは、できる限り避けなければならない。
私はそう考えるようになった。
そこで私は問い続けた。
手術時間を短縮して、もっと身体への負担を減らせないか。
痛みを少なくするため、もっと筋肉を傷つけずに済まないか。
腰椎を弱めないために、もっと骨を温存できないか。
術後廃用をなくすため、もっと早くリハビリを開始できないか。
その問いへの答えを求め続けた結果が、私の低侵襲手術への取り組みであった。
もともとMD法とは、腰椎椎間板ヘルニアに対する最小侵襲手術法として外国で開発
された手術である。私は、このMD法をあらゆるタイプの腰椎変性疾患へ普遍化し、
再発手術、腰椎固定術の低侵襲化も進めた。
小さな切開。
最小限の筋肉剥離。
必要最小限の骨切除。
出血の軽減。
術後疼痛の軽減。
早期離床・退院。
これらは技術的な工夫であると同時に、なによりも患者さんへの思いやりであった。
私は手術をただ上手に行いたかったのではない。
患者さんに術後できるだけ苦しんでほしくなかったのである。
そして経験を重ねる中で、一つの重要なことに気づいた。
身体への負担を減らすという考え方は、高齢者にこそ大きな恩恵をもたらすということである。
体力が低下した高齢者ほど、手術侵襲の影響を受けやすい。
逆に言えば、侵襲を減らすことができれば、高齢であることだけを理由に治療を諦める必要はなくなる。
私が高齢者脊椎外科へ向かうことになったのは偶然ではない。
患者さんの苦しみを減らしたいという思いを追求した結果であった。
振り返れば、私の低侵襲手術は私が作り上げた技術ではない。
患者さんたちが私に与えてくれた課題への回答であった。
痛みを取るための手術だからこそ、手術による痛みも最小限でなければならない。
歩けるようになるための手術だからこそ、できるだけ早く歩行を再開できなければならない。
私はその当たり前のことを追い求めてきたのである。
そして今もなお、その道の途中にいる。


